土岐市文化プラザの線画 土岐市文化プラザの線画
サブページメインイメージ

企画展『開館44年収集の軌跡Ⅱ 現代の作り手たち』

「現代の作り手たち」をテーマに当館の美術工芸コレクションが形成されてきた軌跡を振り返る。   会期:2023年09月09日~12月10日

はじめに

当館の美術工芸コレクションは、初代土岐市長二宮安徳が収集した二宮コレクションを礎に、土岐市政のあゆみと深く関わり合いながら蓄積されてきた。陶彫展や現代茶陶展といった土岐市主催の公募展や姉妹都市イタリアファエンツァとの関わりからは、土岐市がやきもののまちとして産業的側面に捉われず、文化芸術振興に目を向けてきたことがうかがえる。他方、美濃桃山陶生産の中心地としての歴史を背景に、茶陶制作に取り組む市内外の作家作品の収集も積極的に行ってきた。

本展では、この地と関わり、土の可能性を探り、形にしてきた現代の作り手たちの作品を展観する。

1.美術工芸コレクションの礎 二宮コレクション

二宮コレクションは初代土岐市長 二宮安徳(にのみや やすのり・在職1955-75)が収集した400点を超えるコレクションである。これらの作品は、美濃の陶芸家のほか岐阜県出身の画家、民藝作家など様々な作り手たちとの交友をもとに収集された。退官を控えた1973年(昭和48年)、「文化不毛の地であってはならない」という言葉とともに、市民の芸術振興のため、市に一括寄贈された。

  • 出光美術館にて

    1967年

    左から小山冨士夫、濱田庄司、二宮安徳
  • 種子島茶碗

    小山冨士夫
    1973年

    陶磁研究家であり陶芸家でもあった小山は、土岐市駄知町の陶芸家塚本快示(つかもと かいじ)を介して二宮と交流を持った。二宮が自身の政策の集大成として打ち出した美濃陶芸村構想に賛同し、1972年(昭和47年)、土岐市五斗蒔に花の木窯を築窯。翌年、住居が完成すると土岐市に移住し、亡くなるまでの3年間で試験焼成を含め計4回、花の木窯で作品を焼成した。
  • 白釉黒格子掛大鉢

    濱田庄司
    1955-75年

    栃木県益子で活動した濱田は、民藝運動を牽引した作り手の一人である。1966年から1973年にかけて(昭和41~48年)、4度にわたり土岐市の二宮のもとを訪れている。二宮の美濃陶芸村構想には濱田も興味を示し、3度目の訪問時には現地視察を行ったが、実現には至らなかった。
  • 閑徹

    棟方志功

2.収集2つの視点 寄贈と購入

博物館が資料を収集する手段は、大きく二通りある。館の理念に沿って、「館独自の予算をもとに購入する」こと、「市民から寄贈を受ける」ことで、収蔵品の充実を図っていく。当館は土岐市唯一の公的な博物館として、この地の歴史を紡いでいく使命がある。美術的に評価されたものから、地域資料として地元で大事に残すべきものまで、様々な性質の資料を収集し、後世につないでいく。

  • 手捻ウラン黒釉茶碗

    土岐窯(土岐市陶磁器試験場)
    1958- 年

    核原料物質として知られるウランだが、陶磁器生産の現場では呈色剤として、20世紀中頃まで国内外で使用された。1962年(昭和37年)、土岐市でウラン鉱床が発見されると、有力な資源となり得るか調査が進められた。本作はウラン鉱床発見の記念として、土岐市で採取されたウランを用いて土岐市陶磁器試験場で作られ、関係者に配られた。
  • 少女図鉢

    小谷陶磁器研究所
    1951-58年

    小谷陶磁器研究所は1952年(昭和27年)、下石町で製陶業を営む安藤知山(あんどう ちざん)と陶磁器デザイナーの日根野作三(ひねの さくぞう)によって設立。昭和30年代以降この地で盛り上がったクラフトのムーブメントの中心地だった。2021年度の特別展で取り上げたことで、関連する資料の寄贈や情報提供が進んでいる。
  • 萌黄金襴手草花文水指

    加藤幸兵衛(五代)

    当館がこれまで重点を置いて収集してきたのは、美濃焼の歴史を物語る資料である。中でも資料購入によって収集した陶磁資料は多岐にわたり、江戸時代以前につくられた古陶磁や近現代の量産品、当地で活動する陶芸家の作品など様々である。収集した資料からは、様々な作り手が試行錯誤し、美濃焼の歴史を形づくってきたことがうかがえる。

3.イタリア ファエンツァとの交流

1979年(昭和54年)、土岐市はイタリアのファエンツァ市と姉妹都市となった。以来、使節団の相互派遣などを通して、歴史ある陶磁器産地同士の絆を深めてきた。当館には、交流のきっかけとなった人物でイタリア現代陶芸の巨匠カルロ・ザウリの作品を30点収蔵している。1992年(平成4年)には、同市の陶芸家ジョバンニ・チマッティが土岐市に滞在し、セラテクノ土岐での制作品を当地に残した。

  • ファエンツァ市・土岐市での姉妹都市盟約式

    1979年
  • 垂直の核

    カルロ・ザウリ
    1976年
  • EMBRIONE(胚珠)

    ジョバンニ・チマッティ
    1992年

4.文化芸術を育む

公募展の開催

土岐市では、陶磁器産地ならではの公募展をいくつも開催してきた。1986年(昭和61年)に始まった「日本現代陶彫展」、そこから派生した「ユーモア陶彫展」がその先駆けである。陶磁による彫刻=陶彫(とうちょう)をテーマに、まちに溶け込むパブリックアートとして土の可能性を追求したものだった。2006年の開催が最後となったが、市中に展示された作品を今でも楽しむことができる。

  • 土岐市初の陶彫展「第1回土岐市陶彫展」

    1986年
  • 問自考

    柴田節郎

    第1回ユーモア陶彫展優秀賞
    1997年
  • 家-人

    伊藤慶二

    第1回ユーモア陶彫展奨励賞
    1997年

土岐市織部の日と茶陶

1989年(平成元年)には、土岐市織部の日が制定された。これは、織部焼の文献上の初見とされる慶長4年(1599)2月28日に由来している。以来、記念事業として「織部の心作陶展」や「現代茶陶展」といった織部焼のような革新性を問う公募展が始まった。特に現代茶陶展は、茶の湯の器をテーマとした全国規模の公募展として、現在でも多くの作り手の登竜門となっている。

  • 第1回現代茶陶展審査風景

    1995年
  • 銀彩花入

    岩佐昌昭

    第14回現代茶陶展大賞
    2022年
  • 七彩茶入

    アーグネス・フス

    第14回現代茶陶展奨励賞
    2022年

織部茶会

土岐市織部の日が制定されたことで、土岐市の様々な行事で茶会が盛んに行われるようになった。2002年(平成14年)には、織部の日記念事業で織部大茶会が開かれ、市内外の作り手たちが制作した茶碗で茶が供された。茶陶に挑む作り手や茶の湯に親しむ機会が多いのは、茶陶「美濃桃山陶」の生産地としての歴史を持つ当市ならではの文化といえる。

  • 青白磁輪花茶碗

    塚本快示
    1983年
  • 晒地鶴絵茶盌

    中島正雄
  • 赤志野茶盌

    林正太郎
    2002年

5.近年の収集作品 2022年度新収蔵品

2022年度は、資料購入や市民からの寄贈により、計96点の現代作家作品が新収蔵となった。特に市民からの声は、当地の歴史の一端を後世に残す貴重な手がかりとなる。提供された資料や情報によって、新たな事実が判明したり、これまで蓄積した情報をより精彩に捉えることができたりすることで、当地の歴史を紐解いていく一助となる。

  • エマイユ額

    中上良子

    中上良子(なかがみ よしこ)は土岐市下石町を活動拠点とし、陶磁器デザイナー、エマイユ(七宝)作家として活躍した。女性が表舞台に立つことの少なかった戦後の美濃窯業界において、突出した才能を発揮し、美濃のクラフトのムーブメントにも加わった。2022年度に初の回顧展を開催したことで、市民からの作品寄贈や情報提供が進み、中上の制作活動の様子が明らかとなりつつある。
  • 鳥獣戯画花瓶

    中島正雄

    中島正雄(なかしま まさお)は土岐市下石町で製陶業を営み、量産品だけでなく自身の作品制作も行った。青磁、高麗青磁の技法で土岐市無形文化財に指定された。伝統的な技法を追求する一方で、美濃クラフトのムーブメントの中心的人物としての側面もあった。これらの作品は、中島の作品を愛したコレクターからの寄贈により収蔵した。作り手を支える収集家の存在もまた、当地の歴史の一端を担っているといえる。
  • 銀彩点紋鉢

    伊藤慶二
    1968年

    伊藤慶二(いとう けいじ)は、日根野作三に薫陶をうけた作り手の一人である。本作は、日根野が30年にわたる自身の指導をまとめた著書『20cy後半の日本陶磁器クラフトデザインの記録』に掲載された作品の類似作である。日根野と美濃のクラフトの関係を象徴する作品の一つといえる。作家本人からの寄贈により、作品とともに当時の貴重な証言も記録することができた。
  • 日根野作三
    1955-64年

    日根野作三(ひねの さくぞう)は、陶磁器デザイナーとして全国の窯業地を指導して回り、美濃にクラフトのムーブメントを巻き起こした。ひと月の20日以上を指導先で過ごした一方、束の間の余暇として、三重県伊賀の自宅で楽焼の制作を楽しんだ。生涯をかけて陶磁器産業の発展に尽力した日根野の、純粋な個としての側面を垣間見ることができる作品である。

ページトップへ