重要文化財公開「元屋敷陶器窯跡出土品展」(第1展示室)
「ウス茶ノ時ハ セト茶碗 ヒツミ候也 ヘウケモノ也」(「宗湛日記」慶長4(1599)年2月28日)。織部茶碗の描写として知られる有名な一節です。土岐市では、織部焼の文献上の初見とされるこの日記が記された2月28日を「織部の日」と制定しています。本展は、第31回織部の日記念事業として、重要文化財・元屋敷陶器窯跡出土品を公開するものです。
国史跡「元屋敷陶器窯跡」は土岐市泉町久尻に所在する古窯跡群で、安土桃山時代から江戸時代初頭に大流行した「茶の湯」の影響を受け、瀬戸黒、黄瀬戸、志野、織部といった茶陶「美濃桃山陶」が生産されました。歪んだ形状と華やかな色彩を特徴とする美濃桃山陶ですが、その変化は瀬戸黒と黄瀬戸に始まり、志野、織部へと進むにつれ顕著になっていき、織部の沓茶碗や色彩豊かな向付はその到達点といえます。
今年度は、第2展示室において企画展「山茶碗」を同時開催します。山茶碗は、平安時代末から室町時代にかけて作られたやきもので、庶民向けの雑器としてとくに碗と皿が大量生産されました。無釉で土味そのままの「山茶碗」は素朴な味わいを見せ、同じ美濃窯で作られたやきものながら、極端なまでに作為が加えられた「織部茶碗」とは対極にあります。そして、その用途も日用食器と茶陶という、まったく異なるものです。本展では、山茶碗と比較していただくことも意図し、元屋敷の出土品により織部の沓茶碗に至るまでの茶碗の変遷をご紹介します。また、茶室で使用される水指や茶入、懐石用食器としての向付や大鉢など、茶の湯の道具という視点で、重要文化財をご鑑賞いただきたいと考えています。
黒織部(重要文化財)
企画展『山茶碗』(第2展示室)
美濃焼とは、岐阜県の東濃地方で生産されてきた多種多様な焼き物のことをいい、その歴史は1300年あまりに及びます。東濃地方は国内有数の大規模窯業地として“美濃窯”(または東濃窯)と呼称され、時代ごとに特色のある焼き物が生産されて今日へと至っています。
本展の主題である【山茶碗】とは、平安時代後期(11世紀後半)に始まり、戦国時代初め頃(15世紀後半)まで約400年間に渡って生産された無釉の素朴な焼き物です。平安時代前期(9世紀後半)に東濃地方を大規模窯業地へと飛躍させた【灰釉陶器】の系譜に連なる焼き物であり、灰釉陶器の量産が進み高級品から日用品へと変貌していく流れの末に誕生した焼き物でした。東海地方の各地で生産されているため産地や時期によって多様な様相が見られますが、碗と小皿が生産の主体であり、簡略化と小型化の方向で変遷していく様子は各産地で概ね共通しています。灰釉陶器のように日本全国へと広く流通したわけではなく、産地である東海地方で主に使用されていた焼き物ですが、身分の貴賤を問わず誰もが気軽に使うことのできた焼き物だったといえます。
本展では、美濃窯の山茶碗を主軸にしつつ、美濃窯周辺地域の他の生産地の山茶碗も合わせて展示することで、山茶碗という焼き物の歴史とその素朴な魅力についてご紹介します。
下石西山