戦後復興の只中にあった昭和20~30年代、美濃の主産業である陶磁器生産の現場で女性のデザイナーが活躍したことをご存知でしょうか。岐阜県高山出身の中上良子(1932-2005)は、学生時代に学んだ絵の才能を活かし、多治見の太洋陶園で陶磁器生産に携わるようになります。そこで中上は、窯業指導のために各地を訪れていた陶磁器デザイナーの日根野作三と出会います。中上の才能にいち早く気づいた日根野は、その後、折に触れて中上の活躍の機会を見出し、人生を通して中上に影響を与えました。
陶磁器デザイナーとしての中上は、動植物や女性などをモチーフにした緻密な文様パターンのデザインを得意とし、中上自ら彫り込んだ銅板を用いた銅版転写によって器が彩られました。土岐の知山陶苑、香蘭社など数々の製陶所での仕事を通して、輸出陶磁器デザインコンクールやグッドデザイン賞で評価を得ていきました。昭和37年(1962)頃になると、日根野を介して名古屋の安藤七宝店にエマイユ(七宝)のデザイン提供を行うようになり、やがて自身でもエマイユの制作を開始します。色が複雑に折り重なった中上独自のエマイユは、昭和55年(1980)、フランスの国際七宝美術ビエンナーレでリモージュ市工芸会賞を受賞するに至ります。
日根野を起点に美濃で巻き起こったクラフトデザインのムーブメントにも加わり、様々な作り手と関わりながら、生涯、制作に生きた中上良子の世界をお楽しみください。
【出品点数】
陶磁器 18点、七宝焼 42点 ほか計 約75点
※会期の前半・後半で展示作品を一部入れ替えます。
【出品作家・製造者】
中上良子、日根野作三、安藤光一、伊藤慶二、加藤仁、中島正雄、安藤七宝店、香蘭社、太洋陶園、知山陶苑
チラシ